北川貴好「フロアランドスケープー開き、つないで、閉じていく」

またもや今更ながら書きます系なのですが、アサヒアートスクエアで2/5までやっていた北川貴好さんの「フロアランドスケープー開き、つないで、閉じていく」を見に行ったので記録しておこうと思います…
そもそもこの展示がアンテナに引っかかったのは「朝食風景」というイベントを合わせて開催していたからです。アートのある空間でおいしい朝ごはんを食べれるという素敵な企画にかなり心ひかれたのですが、平日のみの開催なのであきらめました…。しかし展示自体にとても興味をひかれたので浅草までやってきてみました。

久々に浅草に来て、地下鉄の出口を出たところから展開される地下街のあまりにディープな昭和の風景にちょっとのけぞりました。テーマパーク感0、これが本物でい!と言わんばかりのお店が並んでました。写真は夜撮ったので、もっと昭和感バリバリのお店は閉っておりますが…

駅を出て隅田川の向こうを目指して橋を渡ります。アサヒアートスクエアがあるのは、向かって右のスーパードライホール、スタルク様の炎のオブジェがのっかった通称○○○ビルです。あのビルの中に入れるのか…というのも是非行かねばと思ったポイントの1つでした。ビルの隙間からスカイツリーもお目見えしております。

○○○ビルは入り口もよくわからないし、エレベーターの配置とかも微妙…と思わせる不便ビルでしたが、なんとか会場までたどり着くことができました。入る前に「写真をブログやtwitterにアップするのはご自由に」的な注意書きを見て、逆じゃなかろうかと二度見してしまいました。なんて太っ腹、海外の美術館みたい!と小さく感動しながら、普段は演劇などの舞台が開催されているらしい会場に幕をくぐって中に入ると、舞台が行われていると思われないような異空間が展開されていました。段をあがった1枚の床に展開された展示の中でまず目に付いたのは、この穴の開いた壁で覆われた小部屋の中に横たわるベッドです。寝室というプライベートで閉ざされた空間を開かれたものにするための穴なのでしょうか。ベッドからは細いチューブが顔を出し、ちょろちょろと水を流していました。

そしてそのベッド部屋の向こうには洗濯機が並んでいます。写真には入っていませんがもう1台洗濯機があって、この中央の水たまり?を囲っています。この水は3台の洗濯機の泡や排水を表しているらしいです。水の流れが3台の洗濯機をつないでいくのかな?

しばらく眺めていて気付いたのですが、まるで朝、昼、夜と1日の時間の流れをたどるように照明が変わっていきます。光の感じが変わるだけで、さっき見た風景でも、また新しい風景のような印象を与えてくれます。そして床に開いた穴からは植物がにょきにょきと顔を出しています。無機質のようでいてみずみずしさを感じるのは、やっぱり植物の力でしょうか。

そして、その植物の横には空き缶を並べた噴水

さらにその横には、電球をつんだ小さな丘のようなオブジェが展開されています。

2階にあがると、全体像を見下ろせました。それぞれがこのように1枚の床でつながっています。実はこの床の上にも乗っかれて、自由に見て回ることができたようです。そして朝食もこの上で食べられたりしていたのだとか。非日常な空間で食べる朝ごはんはどんな味だったのか気になります。
後でパンフレットを読んで知ったのですが、これらは今まである特定の場所で行われてきたインスタレーションを、アーカイブとして1つの風景にまとめたものらしいです。それぞれのインスタレーションは屋外で行われており、その場所の持つ意味や記憶を作品に投影していくという手法で作られていたらしいです。その手法はとっても建築的だな…と思っていたら建築科出身の方だとわかって納得しました*1
このほかには映像作品がいくつか並んでいました。普段は映像作品はパスしてしまいがちなんですが、人も少なめだったので、休憩ついでに鑑賞し、それぞれじっくりと見ることができました。写真にはないですが、この展示のタイトルともなっている「開き、つないで、閉じていく」という映像作品は、最初は途中から見ていたのでハテナマークが点滅しっぱなしでしたが、通してみたところ「あ〜、なるほど。タイトルの通りだな!」とニヤリとしてしまうような面白い作品でした。映像作品を見る時は、いつも映画のことを思い出して物語の意味などを考えてみたりするのですが、映画が物語を体感させることで様々な痛みや喜びを感じさせるものだとしたら、アートと呼ばれるものは、もっともコアの部分だけを取り出してシンプルに見せてくれるようなものだと思いました。それは自分にとって「美術に触れたくなる」と思う時、バラエティ番組にうんざりしてNHKを見たくなる時の感覚に似ているのであります。

会場は無駄なく全ての空間が作品で彩られていて気が抜けませんでした。普段は客に開放されていないと思われる2階に上がる階段の周辺には、いろいろな裏方的な道具や機材が並べられていたのですが、それは本物なのか作品なのかが一瞬判断できませんでした。このランプはたぶん作品…。日常と非日常をつないでいく作品たちに、既に感覚が侵されてんだなーとしみじみ感じられました。

こちらは普段からお客さんにも開放されているとも割れる階段です。こちらではいろいろな場所で行われたプロジェクトの様子が映像で流されていました。中でも豊雄の仙台メディアテークのガラスの箱に、薄茶の紙を貼りつけてランドスケープを変えてしまう作品が面白かったです。バリアがテーマらしいのですが、単純に幾何学的なデザインが美しいし、見慣れた風景が突然変わった時の違和感をいじる感じが面白いので。

普段は2階のトイレだと思われるドアを開けると、ベッドの上に顔を出していたものと同じチューブが配置されて、やっぱり水をちょろちょろと流していました。つながっていく…?

階段を下りてこれで作品は見終わったかな…と思ったところに1階のトイレのドアが現れました。まだ非日常が続いてるかもと思い念のためドアを開けると、スタルク様デザインの非日常トイレ空間がそこには展開されておりました。

個室を開けたら、こちらは本物のトイレっぽかったです。でも海外のトイレっぽいのが非日常。
こんな風にして、全体的に普段の感覚が少し非日常側にもっていかれるような感じが何かとても面白かったです。その作品1つに思いを込めるというよりは、作品と作品の間の空間をデザインしていると感じさせてくれるのは、建築科仕込だからなのかもしれないです。機会があれば屋外のインスタレーション作品もぜひ見てみたいなー、と思いました。

帰る頃にはすっかり夜も更けて、○○○が夜空に輝いてました。開業したらスカイツリーもキラキラときらめくのでしょうか。思えば浅草に行くというのも非日常行為なので、日本にいながら新鮮な風景をたくさん見られて面白い1日でございました。

*1:プロフィール拝見したところなんか間に知ってる人が一人くらいいそうな気がした…